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「営業管理部主導の販売管理DXプロジェクト」

ある大企業では15年前に導入した販売管理システムが陳腐化。営業パーソンの負荷は以前よりも増大、生産性が低下する問題を抱えていました。営業売上目標未達が常態化し、営業パーソンも「目標未達の原因が煩雑な営業事務のせいだ」と毎日呪文のようにレポートを書く始末。営業管理部長はこうした現状を変革するため、営業管理部主導で販売管理のDXプロジェクトを立ち上げることにしました。

「なかなか捨てられないレガシーデータ」

営業管理部は、15年前の販売管理システム開発にも携わっており、その際に販売管理システムに記録するデータ項目や、上長の承認フローにはかなりこだわって仕様に反映してもらっていました。

旧システムにたまっている大半のデータは、現在の営業活動にはほとんど使用されていない状況ではありましたが、管理上はこれまでのデータ項目を確認することが引き続き重要であることから、営業管理部長は新システムに旧システムの仕様やデータをそのまま踏襲することにこだわりました。

今回、新システムを導入することで新たな販売管理プロセスを構築し、生産性を向上させて営業パーソンの目標達成を促進したいと考える一方で、現実には管理上も全く使用されていないデータや承認プロセスを引き継ぎたい思いを持っているのです。より良い未来を創りたいのに、過去のレガシーを引き継ぎたい。これでは新システムがより複雑化するだけです。

DXプロジェクトの会議では、「営業パーソンの目標達成のために本来必要なデータは何か」、現在の承認プロセスは本来必要なのか」という本質的な議論ではなく、毎回「旧システムのデータ項目や承認プロセスを変えた責任を誰が取るのか」という過去を引き継ぐための意見ばかり噴出し、結局このDXプロジェクトではレガシーデータを捨てる決断はできませんでした。

「レガシーデータ引き継ぎが非効率なプロセスを生み出す」

今回のDXプロジェクトでは、販売管理システムそのものは、最新のローコードのクラウド型に切り替えられ、刷新されました。形式上は「DXが実現され、これから営業パーソンの生産性も上がる」ようなプロジェクトの結末に見えます。

しかし実際には、システムがクラウド型になったことで技術の入れ替えは起きたものの、レガシーデータ項目もこれまでの承認プロセスも温存されているためには結局やり方そのものはこれまでと大きく変わっていないのです。

つまり、販売管理プロセスの根本的な改革には繋がっておらず、営業パーソンの生産性向上に大きく寄与することなく、入力項目が新仕様追加で旧システムよりさらに増加したことで、結局は営業パーソンのサポートを行う派遣社員を雇い、データ入力作業を行うことになりました。

結果的に、このDXプロジェクトは「システム入れ替え(テクノロジーの入れ替え)」以外には特に成果が無く終わってしまいました。

「BPRを起点に顧客価値にフォーカスした関係者の本質的議論を」

ここまで話してきたDXプロジェクトが失敗に終わった原因ですが、これは「BPRに基づく顧客視点の販売管理プロセスの抜本的見直し」を徹底しなかったことに起因します。

今回のDXプロジェクトを徹底的に顧客視点で考えた場合に、「レガシーデータにはどのような価値があるのか」「承認プロセスは承認者全員が本当に内容を確認して承認しているのか」など、本質的な問いかけをすることが重要でしたが、その議論を飛ばしてシステム化に突き進んでしまいました。

旧来のやり方を捨てるためには、組織としての決断力が求められます。特に、管理項目の廃止など難しい判断はやはり責任者に英断が求められます。経営者は、部門や担当者にDXプロジェクトを委任した場合に、今回ご紹介した事例のようなレガシー維持の力学が大きく働くことを十分理解しておくことが重要です。

部門、責任者、経営者の想いを出し合い対話しながら、顧客価値について議論を行うことがDXプロジェクトの成功に必須の要素だと考えています。その基点として、BPRの議論(今回で言えば販売管理プロセスのあるべき姿)からスタートすることを当社は推奨しています。

 

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